糖尿病が原因で網膜に異常をきたす病気です。糖尿病では、血液中の糖分(血糖)が多くなり(高血糖)、その結果、全身の血管や神経がしだいにおかされます。網膜の血管が損傷を受けると、網膜のすみずみまで酸素や栄養を送れなくなってしまいます。
糖尿病の患者数は約690万人、予備軍を含めると、約1,370万人になります。糖尿病で通院中の患者さんの約4割に糖尿病網膜症がみられ、約2割の方は失明の危険があるのです。糖尿病網膜症の進行予防・失明予防のためには、糖尿病と診断されたときから定期的な眼科の検査を受け、糖尿病と眼科の適切な治療を続けていくことが必要です。しかし、糖尿病には自覚症状が少なく、網膜症の初期も自覚 症状はほとんどありません。そのため、実際には糖尿病を放置して悪化し、毎年3,000人以上の方が、糖尿病の合併症で視力を失ってしまっています。
糖尿病網膜症は初期には自覚症状がほとんどありませんが、検査によって異常を発見することができます。また、早期発見であればあるほど、治療の成功率も高くなります。検査としては、精密眼底検査が有効です。精密眼底検査とは、目薬によって瞳を拡げた後、目に光をあてて目の奥(眼底)の状態を調べる検査です。この検査を行うと、小さな出血や血管の異常を見つけ出すことができます。糖尿病自体も自覚症状に乏しいため糖尿病と診断されたときには、すでに網膜症がかなり進んでいる場合もあります。そのため糖尿病と診断されたと同時に、眼科医の精密検査をスタートさせ、これを病状に応じて定期的に続けることが非常に重要だと言えます。
当院では、いつでも精密眼底検査を行っています。また、多くの糖尿病網膜症の患者さんの経過観察・治療を行ってきた経験から、網膜症の状態に応じた内容の検査を行っております。
糖尿病網膜症の進行は、単純網膜症、前増殖網膜症、増殖網膜症の3段階に分けられます。 糖尿病網膜症は、病気のステージの進んだものを元に戻すことはできません。そのため血糖のコントロールに よって網膜症を進めないようにする予防、眼科的に行うステージが進むのを食い止めるための治療が必要です。
網膜症に対して後手に回らないように経過観察を行います。
最初に出現する異常は、細い血管の壁が薄くなってこぶ状に盛り上がってできる血管瘤や、小さな出血です。また、蛋白質や脂肪が異常な血管から漏れ出て網膜に白い斑点(白斑)が表れます。これらは血糖値のコントロールが良くなれば改善することもあります。この時期には自覚症状はほとんどありません。
細い網膜血管が広い範囲でつまると、網膜に十分な酸素が行き渡らなくなり、綿毛の様な白い濁り(軟性白斑)が網膜に出現します。そして、 足りなくなった酸素を供給するために新しい血管(新生血管)を作り出す準備を始めます。この時期になるとかすみなどの症状を自覚することが多いのですが、全く自覚症状がないこともあります。この状態で、何か手を打たないと大出血や網膜剥離の原因となる新生血管が生えてしまうので、前増殖糖尿病網膜症では、多くの場合、網膜光凝固術(*)を行う必要があります。
新生血管が硝子体に向かって伸びてきます。新生血管が破れると、硝子体に出血することがあります。この出血が起こると、視野に黒いゴミの様なものが見える飛蚊症と呼ばれる症状が出たり、出血量が多いと眼の中が血の海のようになり急激に視力が低下します。また、網膜剥離を起こすことがあります。このような場合には手術が必要ですが 、この段階まで進んでしまうと手術がうまくいっても日常生活に必要な視力にまで回復しないこともあります。この時期になると血糖のコントロールがうまくいっていても、網膜症は進行することも多いのです。
糖尿病黄斑症は上記の1、2、3、のどの病期にも出現します。網膜黄斑部に出血や白斑、浮腫などが出現します。黄斑部は物を見るど真ん中なので小さな変化でも、視力に対する影響が大きく、また、回復しにくい特徴があります。糖尿病黄斑症に対しては、通常のレーザー治療よりも中心に近い部分のレーザーや、硝子体手術が行われますが、有効なことは多くありません。
網膜光凝固術は通常は通院で行い、レーザー光線が用いられます。網膜の小部分を間引きをするように光で凝固して網膜の細胞を減らして酸素不足を解消し、新生血管の発生を予防したり、新生血管を細くするのが目的です。光凝固は正常な網膜の一部を犠牲にしますが、全ての網膜、特に最も大切な中央部分の網膜にダメージが広がるのを防ぐために必要な処置です。この手術は網膜症の回復や治癒でなく、進行を止めることを目的としています。そのため多くの場合、治療後の視力は不変かむしろ低下することすらあります。網膜光凝固術は適切な時期に行えばかなり有効で、将来の失明予防のために大切な治療です。 当院ではレーザー光凝固装置を備え、経過観察中の必要な時期に治療を行っております。
レーザー治療で網膜症の進行を止めることができなかった場合や、すでに網膜症が進行して網膜剥離や硝子体出血が起こった場合に対して行われる治療です。眼球の壁に小さな切開創を作り、そこから細い手術器具を眼内に挿入し、目の中の出血や増殖組織を取り除いたり、剥離した網膜を元に戻したりするものです。眼科領域では高度なレベルの手術となります。
まずは、糖尿病治療、血糖のコントロールです。良好な血糖コントロールを目指して、食事療法や運動療法をきちんと行った人は、糖尿病網膜症が発病しにくく、発病してしまっても進行しにくいことがわかっています。 そして、定期的な眼科的な検査を同時に行うことが重要です。糖尿病も糖尿病網膜症も徹底的に集中治療を行って治癒を目指す病気ではありません。上手にコントロールをして永続的に生活に支障が出ないようにずっとうまく付き合っていく病気です。一生、根気良く定期検査や薬、適した生活状態を続けることが何より大切です。これが、一番大変なことですが・・・・。
血糖値が非常に高いときに、急激な血糖コントロールを行うと、網膜症が悪化してしまうことがあります。内科と眼科での綿密な連絡と、落ち着いた治療を進め、頻回の検査が必要なことがあります。
血糖コントロールには運動療法が大切ですが、増殖網膜症まで進んでしまった場合、激しい運動によって新生血管から出血する場合があるので、網膜症がある程度進行しているときは眼科医としっかり相談をしてくださ い。
妊娠・出産によって、網膜症が進み失明する危険性もあります。事前に精密眼底検査を受け、必要に応じてレーザー光凝固術などの治療を行います。血糖値が改善後であれば、妊娠・出産も不可能ではありませんが、妊娠中の血糖コントロールは通常とは異なるので、糖尿病内科の医師と十分によく相談をしてください。
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